青年男女が主人公の小説3

青年男女が主人公の小説を集めました。第3弾の著者は、宿野かほる、薬丸岳、壺井栄、飛鳥井千砂、羽田圭介、辻村深月、奥田亜希子、綿矢りさ、吉川トリコ、辻堂ゆめ、松岡圭祐ほか。


はるか


はるか
宿野 かほる

 
内容紹介
幼い頃出会った「はるか」という名の少女。鮮烈な印象を残した彼女を、賢人はいつしか好きになっていた。長じて人工知能の研究者となった賢人は、画期的なAI「HAL-CA」を生み出し…。近未来の愛を描いた、著者第2作。

前作『ルビンの壺が割れた』で味わった予測不能の展開&引きずり込まれる世界観に今回もあっという間に一気読み。後味悪ぅ~い考えさせられる読後感も続投。AIが進化したらこういうこともあり得るんだろうなってちょっぴり怖いし、それに惑わされないようプログラミングしてくれる研究者が出て来たらいいなとも思う。


友罪


友罪
薬丸 岳

 
内容紹介
埼玉の小さな町工場に就職した益田は、同日に入社した鈴木と次第に打ち解けてゆく。だが益田は、鈴木が、連続児童殺傷で日本中を震え上がらせた事件の犯人ではないかと疑惑を抱くようになり…。少年犯罪のその後を描いた長編。

文庫のページが分厚すぎて気持ち萎えそうになったが…読み始めるとそのスピード感にやめられなくなる。先の見えない展開と事件その後の重苦しさに胸が締め付けられるが、この世界にはこのようなことは現実として存在していることをはっきりと突き刺してくる。ジャーナリズムとは何か、ミーハーな気持ちではなく考えさせられる一冊。


二十四の瞳


二十四の瞳
壺井 栄

 
内容紹介
子供たちを育み守ろうとする先生と、時代の引き起こすきびしさと貧しさに翻弄されながら懸命に生きる子供たち…。瀬戸内の一寒村に赴任した若い女性教師と12人の生徒のふれあいを通して、戦争への怒りと悲しみを訴える名作。

純粋で正義感の強いはつらつとした女先生とこれまた純粋に先生を慕う12人の生徒を中心に、戦前、戦中、戦後の農産漁村を描いている本作。戦後反戦文学の名作と言われているが作中に出てくるのはキツい直接的な表現では決してなく、主人公の教え子に対する慈愛の心から湧いて出る戦争への批判という形で、主人公の先生は悲しむし憤るし途方にもくれる。女性作家目線で戦争を見て感じた思いが書き留められているのでより心に残る。


新訳マクベス


新訳マクベス
シェイクスピア

 
内容紹介
この翻訳は、野村萬斎演出、世田谷パブリックシアター★ドラマ・リーディングのためになされたものでト書き形式となっている。

新訳なので過去の舞台や時代背景と比較しながら若干変えたところ、原作の表現ではっきりしないところを想像しながら脚注で説明されているのが面白い。聖書からの引用や他のシェイクスピア作品からの引用・流れを汲んでいるのも興味深い。

MEMO

ただ食事をするだけなら自宅が一番。招かれてのご馳走は、歓待こそ料理の味付け。それがなければ会食も味気なくなります。

MEMO

安心と思う心が人の敵。


そのバケツでは水がくめない


そのバケツでは水がくめない
飛鳥井 千砂

 
内容紹介
アパレルメーカーに勤める理世は、新ブランドのメインデザイナーに美名をスカウト。彼女の魅力とその才能に激しく惹かれる理世だが、やがてその親密さは過剰になっていき…。
『小説NON』連載に加筆し単行本化。

パワハラ・セクハラにたいする考えや対応、家族・恋人・友人との関わりについて考えさせられながらも、後半に至る怒濤の急展開と人間の奥深いトラウマに恐怖さえ覚える本。序盤からぐいぐい入り込める読みやすさがあり、一気に読めるから、人と関わるすべての人に読んでおいてほしい一冊。

MEMO

以下、印象的だったとこ
 
佐和さんから、この人は私を受け入れてくれるというような、優しい人柄が滲み出ていたんですよ、きっと。だって私、言われてみれば初めてですよ。こんな風に、出会ったばかりの人と、心をすっかり許して打ち解けているのなんて。
 
すごく美人とかスタイルがいいってわけじゃないんだけどね。自分に似合うものがわかっているし、年齢や型にハマってなくて、独特の雰囲気が漂ってるっていうか。上手くは言えないんだけど、素敵な人だよ。
 
おかしな人と対話をしようとしたって、無理なんです。相手はおかしいんですから。そういう人には、無理をして距離を置くのが一番いい。相手の怒りが冷めて、諦めるのを待つのが、一番被害が少なくて済むんですって。
 
理想の恋愛の形は、お互いを尊敬し合えること。お互いの仕事や価値観、性格とか。どちらかに合わせなきゃいけないものじゃないと思います。違うからといって別れてしまったり、どちらかが譲るのはおかしいですよね。違っていい、違った二人が、隣り合わせで立って、一緒に歩んでいくのが理想ですね。
 
まず自分自身に自信を持つこと。自分というものがしっかりあれば、人って他人のことも敬意を持って認められると思うんです。恋愛をしても、その人と出会うまでの自分を捨てたり、見失ったりせずに、お互いに自分らしく向き合っていれば、自然と理想の恋愛の形は実現するんじゃないでしょうか。
 
私は、変わらないものが欲しいんです。なくなってしまう幸せは、怖い。
 
かけてるのは、迷惑じゃなくて、心配。


成功者K


成功者K
羽田 圭介

 
内容紹介
芥川賞を受賞したKは、いきなりTVに出まくり、寄ってくるファンや友人女性と次々性交する。突如人生が変わってしまったKの運命は?
『文藝』掲載を単行本化。

自負とプライドってこんなに人をめんどくさく生き辛くさせるんだ、と思わせる一冊。同時に、性について、女性について、自分の見せ方について、こういうふうに考える人がいるんだってこともけっこう衝撃だった。環境は人を変える。けれども人の目を気にせず、考えすぎず、どこにいてもニュートラルな自分でいることは大事だと考えさせられる本。あと、著者の顔がバーンと表紙にうつっていたり、セックスに関してバンバン書かれているから、電車で読むには本を上げても下げても恥ずかしい。しかも分厚い!もうなんなの(笑)

MEMO

以下、印象的だったとこ
 
20年近く売れない時期を過ごしようやく成功をつかんだ共演者の言葉
『連絡先を教えてくれたファンには、早く手をだしたほうがいい。ためらうな考える暇はない。好みだと思った顔と電話番号が一致したら、バカになって連絡しろ。売れてから半年以上経って、自分の旬が過ぎすべてが冷めてから電話をかけても、もう遅い。門は閉じられているんだよ』
 
テレビに出続けるのは、可逆性の問題。今しか宣伝できない、後で暇になってからしたくなっても、波が去った後では遅い。どうせすぐ終わるから、今のうちにやっておく。それに経験にもなるし。
 
互いのことを知ってから交際し、交際してからも月日が経っているからか、好恵の丸顔に大きな目は、思い出すだけで安心感があった。
 
結婚する、とは、少なくとも法的には、数々の女性たちとの性交を未来永劫放棄することだ。今すぐ結婚したいとは本当に思えない。
 
大人の女性から別れを切りだされたら、それはもう修復困難で、絶望的だ。
 
彼女には、つきあいたいという意思はないらしい。目の前で浮かれてみせて、相手にどのような気持ちになってほしくて、相手とどのように関わりたいのか。それが全然見えない。
 
ハッタリをかますわけでもなく、普通の顔してそんなにグイグイくるのは、本当に自信にあふれている男か、救いようのないただの勘違い男、そのどちらかですよ。
 
貧乏人は、安い炭水化物の大量摂取で頭がぼうっとし眠気におそわれ、仕事の効率が落ち、成功者になれる確率が減る悪循環から抜け出せない。


朝が来る


朝が来る
辻村 深月

 
内容紹介
「子どもを、返してほしいんです」 親子3人で穏やかに暮らす栗原家に、ある朝かかってきた一本の電話。電話口の女が口にした「片倉ひかり」は、確かに息子の産みの母の名だった…。子を産めなかった者、子を手放さなければならなかった者、両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長編。
『別册文藝春秋』連載を単行本化。

個々の人間がもつ正しさだったりそれに伴う嫌悪の感情といった価値観の違いが剥き出しになるとき、どう向き合っていくかもこれまた人生観にあらわれる。とにかく壮絶。そして、救われるってこういうことなんだなってラストに泣きながら感じる一冊。

MEMO

以下、印象的だったとこ
 
この人たちは、人生の中味というものを、どう考えているのか。母たちの望むとおり、品行方正な穢れのない青春時代を送った先に、自分たちの望む幸せな人生が問答無用に開くと考えているのか。恋愛にも無縁なつまらない青春を送ることの方は、『失敗』ではないのか。
 
園や学校に過剰なほど文句をつけるモンスター・ペアレントという存在がいる。先生たちが丁寧にへりくだらないといけない事情があるのだとしたら、それは嫌な世の中だという気がした。
 
特別養子縁組は、親のために行うものではありません。子どもがほしい親が子どもを探すためのものでもなく、子どもが親を探すためのものです。すべては子どもの福祉のため、その子に必要な環境を提供するために行っています。
 
一度そう思ってしまうと、確認するのが怖くて、できなかった。ますます、この話についてはもう話せない、と感じた。
 
うちには幸い、父親の役割ができる人間と、母親の役割ができる人間の両方がいて、子どもを育てるための環境がある。この環境が役に立つなら、使ってもらうのもいいんじゃないかと思ったんだ。
 
血のつながりのない子どもって言っても、もともと、オレと君だって血がつながっていないけど家族になれたじゃないか。きっと、大丈夫だよ。


リバース&リバース


リバース&リバース
奥田 亜希子

 
内容紹介
ティーン誌の編集者である禄と、その雑誌を愛読する中学生の郁美。出会うはずのないふたりの人生が交差する時、明かされる意外な真実とは…。
『小説新潮』連載に加筆し単行本化。

過去と現在、登場人物らが、場面ごとに切り替わりながら展開していく。ページが進むにつれ、いずれの続きも気になってくるドキドキ感とそれぞれのエピソードが繋がっていく爽快感がある。繋がってどうなっちゃうの!?とラストを読みたいような逃げたいような、そんな気分を味わった本。

MEMO

以下、印象的だったとこ
 
狭い町にみんなで肩を寄せ合って暮らしてるんだから、自分さえよければいいっていう考え方はやめなさい。売る側になったりお客さんになったり、そんなふうに入れ替わりながら社会は回っているんだよ。
 
自分では選べないようなことを持ち出して誰かを傷つけるのは、最も品性の下劣な行為だ。
 
先のことを引き受ける覚悟もないのに、理解があるふりをしたいからって、簡単に口にしないで。
 
人は、ずっと被害者の立場ではいられない。日常生活の中では、誰もが被害者にも加害者にもなる。なにかでは傷つけられる側にいても、また別のなにかでは人を傷つけている。私たちは、許したり許されたりしながら、何度も何度も関係をひっくり返しながら、なんとか進んでいくしかないんだ。そうできない相手なら、距離を置いたほうがずっといい。


ウォーク・イン・クローゼット


ウォーク・イン・クローゼット 
綿矢 りさ

 
内容紹介
新進陶芸家の郷里の工房に女ストーカーが現れる「いなか、の、すとーかー」、28歳OLと幼なじみの人気タレントの友情のゆくえを描く「ウォーク・イン・クローゼット」の2編を収録。
『群像』掲載を単行本化。
 
著者紹介
1984年京都府生まれ。2001年「インストール」で文藝賞、04年「蹴りたい背中」で芥川賞、12年「かわいそうだね?」で大江健三郎賞を受賞。

自分の心とは裏腹に、まわりの環境に翻弄される若者を描いた2作品を収録している綿矢りさの本。

自分をしっかり持っているはずなのに、うまくいかないもどかしさをよくあらわしていて、シチュエーションは違うが誰にも刺さる感情があると思う。


しゃぼん


しゃぼん
吉川 トリコ

 
内容紹介
大好きな彼との生活。なのに、さみしいのはどうして? 少女でもおばさんでもない、ずっとこのまま、女の子でいたい…。だれかを思うことのかなしみを描く。
第3回R-18文学賞大賞・読者賞ダブル受賞作品を含む短編集。

著者紹介
1977年静岡県生まれ。「ねむりひめ」で女による女のためのR-18文学賞大賞・読者賞を受賞。他の著書に「グッモーエビアン!」「しゃぼん」など。

怠惰と独占欲と嫉妬。そうした自分のなかでどうにもならない感情を、抑えるのが苦手な主人公たちがさまよっている一冊。

共感、同情、無理解、さまざまな感情が自分のなかをよぎっていくが、これもまた社会なんだろうなと考えさせられる小説だった。


君といた日の続き


君といた日の続き 
辻堂 ゆめ

 
内容紹介
リモートワークを言い訳に引きこもっていた僕は、雨上がりのある日、ずぶ濡れの女の子を拾った。タイムスリップしてきたらしい彼女は、僕の大切な人の命を奪った事件に関係しているのか…?
『yomyom』掲載を書籍化。

著者紹介
1992年生まれ。神奈川県出身。東京大学法学部卒業。「いなくなった私へ」で『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞、「トリカゴ」で大藪春彦賞受賞。

悲しみを抱えて心が弱ってしまった主人公に訪れる、ふしぎな出来事。

遠い過去とつい最近おこった悲しみについて考え、やり残したことを叶えていくさまは、人間の再生を見ているようだった。

ラストに向けての展開は、あたたかくもあり胸のさざ波も起こす。読後感は最高。うるうる。


ミッキーマウスの憂鬱


ミッキーマウスの憂鬱
松岡 圭祐


内容紹介
友情、トラブル、純愛…。様々な出来事を通じ、やがて裏方の意義や誇りに目覚めていく。秘密のベールに包まれた巨大テーマパークの「バックステージ」で働く人びとの3日間を描くディズニーランド青春小説。書下ろし。

著者紹介
1968年愛知県生まれ。「万能鑑定士Q」シリーズでブックウォーカー大賞2014文芸賞を受賞。ほかの著書に「探偵の探偵」シリーズなど。 

物語の展開がジェットコースターのようで、ハラハラしながら一気に読んだ作品。

舞台がよく知られているディズニーランドというのも興味深く、現実とフィクションのはざまでモヤモヤしながら読むのも面白かった。

破天荒型主人公が織りなす物語、たまにはいいなと思った。 


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